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2011年8月4日木曜日

高血圧の問題と原発事故による被曝の問題を重ねてみると

東大の児玉先生の発言ビデオを見て、いろいろ見えてきたことがある。

これまで自分がやってきた中で、常に私の発言に対する対抗勢力が声高に叫んでいた部分と重なるのである。そう言えば、私はこういう発言に向き合いながら、学んできたのだと。

高血圧は脳卒中を引き起こす。高コレステロールは心筋梗塞jを引き起こす。だからできるだけ血圧を下げ、コレステロールを下げなくてはいけない。児玉教授の発言は、そういう発言と重なるところがある。放射線によりがんになる。それを何とかして防がなくてはいけない。そういう構造でみると同じなのである。

しかし、その血圧を下げる効果が3%の脳卒中を2%に減らすに過ぎなかったり、コレステロールを下げる効果が、心筋梗塞を30%減らすものの、それ以外の疾患を増やしていたというようなことがある。

そこでさらに、最近テレビで血圧の正常値は130mmHg未満ですとやっているが、そのコマーシャルと今回の発言を重ねると、いろいろ腑に落ちることがある。

脳卒中と高血圧の関係は、血圧が低ければ低いほど脳卒中が少ない傾向にあるということは多くの研究から明らかである。上の血圧についてはすでにゆるぎないエビデンスがあると言っていいかもしれない。
つまり、血圧の正常値が130未満だとしても、それよりも120の方が脳卒中の危険は少ないし、さらに100ならもっと少ない。90以下なら、と血圧の基準を際限なく下げていく立派な根拠がある。
事実高血圧の基準は、ガイドラインが改定されるたびに、160から140へ、そして130へと下がっている。

今のところ血圧130の人に降圧薬を処方しようというような動きはないが、遅かれ早かれそういう動きが出てくるだろう。そしてその考え方にはすでに一定の根拠があるのだ。そうすることで、脳卒中の絶対数は減少するし、本来70代で脳卒中になるところを80台まで伸ばすという効果もあるだろう。

しかし、問題は効果の評価だけでは不十分だというところだ。保険で賄う以上、血圧の基準を厳しくすることにより、多くの人が保険診療で降圧薬の処方を受けることになると医療費が増大する。さらに降圧薬による副作用の問題もある。そうした様々なデメリットとはかりにかけて、基準を厳しくするかどうか判断する必要があるのだが、これはなかなかに難しい問題である。それでもやっぱりどんどん厳しくなる方向へ進むというのは、豊かな世の中と副作用の少ない治療など、様々なものがその背景にある。

そこで原発事故による被曝の問題はといえば、被曝は少なければ少ないほど癌にならない、多けれ多くなるほど癌になりやすい、というしきい値なし仮説をとれば、高血圧と同じである。低線量被曝はがんを減らすという仮説をとれば、そもそも議論の意味がなくなるので、ここではしきい値なし仮説をとることにする。

そこで、100mSV越えというような被曝が、血圧160以上というようなこれまでの基準に相当すると考えてみる。そうすると、それを下回るような被曝は、血圧でいうと、130とか120とかいう基準に相当するのかもしれない。

しきい値なし仮説で行けば、確かに10mSVよりも5mSVの方が癌になるリスクは小さい。もっと被曝を減らす処置を徹底的に取るべきである。さらに1mSVへ、0.5mSVへと、どんどん話が厳しくなる。しかし、そのためには、高血圧の治療同様、莫大なコストがかかる。転居というようなことになれば、多くのものを失うことになる。

そういう中で、死ぬまでに50%が癌になるという現状で、50歳でがんになるのを49歳に早める、というような被曝量(それを計算するのは高血圧のときのような簡単ではないが、ある幅をもっては予想できるだろう)を避け、50歳までがんにならずに済む、というような効果に見合うコストの投入や、被曝を避けるために失うものとのバランスを考える、というのはとても重要なことではないだろうか。

児玉教授の発言は、これまで私が聞いてきた「血圧は低ければ低いほどいいのです」、「コレステロールは低ければ低いほどいいのです」という発言に似ている。そういう発言を聞くたびに、そんなわけはないだろうと思っていた。今回もそれと似たところがある。

全体を考えたときに、「被曝を少なくすれば少なくするほどよい」というような単純な問題ではない。それは急性被曝に当てはまるかもしれないが、慢性障害については少し的が外れている。
慢性障害については、高血圧やコレステロール同様、リスク・ベネフィット全体をとらえた、冷静な分析が必要である。ただ、それはとても困難なことだろう。

自分自身がどう行動を起こすか、それが問われている。それで、とりあえず書いてみた。
どうだろうか。多くの人に考えてもらいたい。

2 件のコメント:

hy さんのコメント...

味噌と糞を一緒に論じているように思えます。
放射能の有効性は有るのかが第一点。
有るとすればその基準値は?。
もし効用が無ければ医学(治療)での必要悪を除けば、其れ以外は有害と見做すのが道理です。
医学上や治療に有効な自然放射線レベルと事故による核汚染を同列に論じる愚を犯してはならないでしょう。
さて、人間の生理現象である血圧やコレステロールと対比する論調は尚更に的外れではないですか?。
個人の健康上のデータは基本的には自身の自律的なライフスタイルでコントロール可能ですし、またそう在るべき事象と考えます。
外的な強制的な感作を個別の内因による症状と同列に論ずることは果たして科学的思考と言えるものでしょうか。

名郷直樹 さんのコメント...

コメントありがとうございます。
まあ味噌もくそも一緒に考えてみるとどういうことが考えられるかということです。違うところを取り上げれば違うとなりますし、同じところを取り上げれば同じとなる。それだけのことです。
あらゆる2物の共通点は等しいことが、「醜いあひるの子の定理」として証明されています。私が個人的な視点で似ていると思うところを整理してみました。